退学
退学(たいがく)とは、児童・生徒・学生が、卒業・修了を待たずに学校を途中でやめること(自主退学)、あるいは労働者の「解雇」と同じようにやめさせられること(懲戒退学、退学処分)[1]をいう。
目次
1 日本
1.1 退学の種類
1.1.1 自主退学と懲戒退学
1.1.2 自動的な退学
1.2 中途退学と満期退学
1.3 退学をめぐる背景
1.3.1 教育段階と退学の状況
1.3.2 退学者の年間規模
1.3.3 退学に対する評価
2 中国
3 イギリス
4 関連項目
5 脚注
6 外部リンク
日本
以下の種類がある。いずれの場合も、学生証の返納など、いくつかの手続きを必要とする(ただし自動退学の場合はこの手続きの必要のない場合もある)。
退学の種類
自主退学と懲戒退学
自主退学と懲戒退学の別は、法制度に裏付けのある分類である。
自主退学(じしゅたいがく)は、幼児・児童・生徒・学生、および、その保護者の意思で退学することを指し、自発的にまたは病気や貧困(学費を支払えない)などやむを得ない理由で退学することを指す。一般的には中途退学(ちゅうとたいがく、略称「中退」)のことである(ただし、自主退学の場合であっても、大学院の博士後期課程などでは学則上、満期退学などの中途退学と異なる退学手続きが設けられていることが多い。この点は #中途退学と満期退学を参照のこと)。
手続きとしては、幼児・児童・生徒・学生とその保護者(または保証人など)の連名により退学願が出され、学校内において審議した後に、校務をつかさどる校長から許可されることによって退学する。
懲戒退学(ちょうかいたいがく)とは、犯罪・非行・過度の原級留置[2](いわゆる「留年」)など、「本人に非のある」理由で、強制的に退学させる懲戒処分の一種であり、退学処分(たいがくしょぶん)、放校(ほうこう)、放学(ほうがく)などともいう。また、アウトローな言い方として、社会人が勤務先を解雇されることに擬えて「クビ」と表現することもある。
懲戒退学は、校長(大学にあっては、学長の委任を受けた学部長を含む[3])が行う。一般に「学校をやめさせられる」とはこのことを指す。放校・放学は「退学処分」の意味で用いられることも多いが、学校によっては退学処分よりも重いもので、「在校生であった事実」そのものが抹消されて、その後の復学も認められなくなることもある。
懲戒退学は、学校教育法(昭和22年法律第26号)第11条[4]に基づいて行使される懲戒権に含まれ、懲戒退学を行うにあたっては各種の制約がある。
学校教育法施行規則には、懲戒退学の理由として「学費を支払っていない者」(滞納している者)は列挙されていないが、学費の未納は国立大学法人の設置する学校、および、私立の学校の場合は学則、公立の学校の場合は地方公共団体が所管する文書に基づいて、除籍となることがある。
日本の場合、退学自体は競馬学校など(学校教育法に基づかない)各種研修所でも実例があり、他の学校にはない、厳格な理由で懲戒退学となる場合もある(競馬学校の場合、毎朝生徒の体重を測定し、その結果規定を超過した時点で退学勧告が出される場合もあり、またそれが度重なった場合や悪質な場合は退学となる。また定期テスト等で不合格の場合、即退学もある。)。
自動的な退学
生徒の在籍している学校が統合および廃校・閉校(長期および無期限の休校になった場合を含む)によって、統合元および休校・閉校元の学校に通学できなくなった場合は、在籍の学校側で自動的に退学の対処が取られる場合がある。これを自動退学(じどうたいがく)と言う。
自動退学の場合は、原則として学校の統合日および休校開始日、または閉校日を持って退学日となる。ただし、高等学校や大学(特に公立学校の場合)に於いては、学業を続ける意思のある生徒に対して、近隣の他の学校を斡旋したり(この場合は教育委員会または学校法人側の裁量により、編入試験を簡略化したり、免除させる場合もある)、および他の学校への編入試験時に不利とならないように配慮させるなどの救済措置が採られる場合もある。また、統合の場合は、自動退学扱いとはせずに、統合先の学校側が生徒の学籍を統合元の学校より引き継いで在籍扱いとし、引き続き統合先の学校に通学できるようにして、生徒の自動退学を回避させる場合もある。
生徒が死亡して通学が物理的に不可能となった場合は、死亡届の確認を実施した後に、同じく自動的に退学の対処が在籍の学校側で実施されるが、この場合は除籍扱いとなり、退学扱いとはならない。
中途退学と満期退学
中途退学と満期退学の別は、法制度に裏付けがなく、細かい取り扱いは各学校および学校法人により異なっている。
中途退学(ちゅうとたいがく)とは、修業年限未満で退学することである。これに対し満期退学(まんきたいがく)とは、修業年限以上在学したものの卒業または修了に至らないまま退学することである(満期退学の例:大学院の博士後期課程に3年以上在学し、学則の要件を満たして退学する。つまり、学則にしたがって正規の手続きで満期退学したにもかかわらず、中途退学というのは誤用である)。
満期退学の語は、特に大学院の博士後期課程・後期3年博士課程、一貫制博士課程、4年制博士課程などを退学した際に用いられることがあり、「単位取得満期退学」などのように、修了に必要な単位を修得していることも付記することもある。1980年代以前は、提出した学位請求論文が“博士の学位を授与して然るべき”と評価されない[5]場合がそれなりにあり、学生は、課程の修了に必要な「博士論文の審査…に合格すること」[6]を経ず、修了に不可分な博士学位の授与を受けずに退学した。このような時、在学し、研究指導を受けていたことを表すために「満期退学」と表記されることがある。大学院の博士後期課程等の満期退学については、「単位取得退学」など各大学により呼称が異なり、これは標準修業年限内に所要単位は取得したものの博士論文を提出せずに退学する学生がそれなりにいることが影響している[7]。但し中央教育審議会大学分科会はこのように称することを認めていない[8]。
障害者教育実習を経て、免許状の授与申請の要件を満たして2年在籍の後に退学する場合も、満期退学(あるいは単位取得満期ないしは、単に単位取得[9])と看做されることがある。ただし、1年ないし1年半で必要条件を修了して退学した場合は、卒業の修業年限を満たしていないため、その場合は、単位修得状況に関わらず、当然に単に「中退」となる。これらは、履歴書上の学歴の書き方(ただし、記入が必要なケースに限る)についても、準用出来る。また、学部教育における中途退学・満期退学とも、「退学」と表現せずに「教育終了」と表現する場合もある(こちらについても、履歴書上の記入方法も同様で、「修了」と書けない点に注意。修了#終了と修了の差異なども参照)。
退学をめぐる背景
教育段階と退学の状況
公立学校(公立の併設型中学校を除く)において義務教育としての教育が行われている児童・生徒には、懲戒退学とすることはできない(学校教育法施行規則第26条第3項)。ただし、他の学校へ自主的に転学する場合(学校の統廃合により、止むを得ず転学する場合を除く)や、学齢(満15歳に達した日の属する学年の終わり)を超過し、かつ本人の希望がある場合などに「退学」扱いとなることがある。このような事由による、自主的な退学はあり得るが、懲戒としての退学処分を行うことはできない。
一方、私立学校については、懲戒退学処分を受けたとしても公立学校に転入することが可能であるため、学齢児童・生徒に対する懲戒退学処分も認められている。「転校勧奨」などの名称で、退学と同等の処分が行われる場合もある。ただし外国人の場合は義務教育の対象者に当てはまらないため 退学届を提出したら受理されることもある。
高等学校(高校)以上の場合だと、退学の例も見られる。現在の日本においては、いじめや各種の学校不適応などの問題から高校を自主退学することも生じやすく、1990年代以降は、退学後に学校で再度学ぶこともなく就職も行わない者(=ニート)が増加しているともいわれる[誰によって?]。また、就職の際に提出する履歴書にも、(自主・懲戒問わず)退学(中退)も学歴として記載しなければならない。なお、高校を卒業せずに退学した者が大学入試を受験しようとする際、高等学校卒業程度認定試験(高認。旧「大検」こと「大学入学資格検定」)に合格する必要がある。この認定試験に合格することで初めて大学入試の受験資格が得られる。2006年度の文部科学省の調査では合格者の約半数が大学、短大、専門学校に進学したという結果も出ている。(2007年05月15日発表)- 学校サイドによる、懲戒退学処分とすると、当該の生徒(規模によりその学校に在籍している学生全体)の将来の進路を阻むことになる。このため、処分を行う際、生徒、保護者、現場の教師、管理職、理事会、委員会などの間で議論が過熱することもしばしばある。また、該当の生徒がそのような立場に置かれた原因の公表、解明はされないことがある。「(自主・懲戒いずれの)退学者が出ることで、学校側のイメージが下がる」懸念もあり、進路変更による退学や自主退学、転校と処理する、または公表しないことがある。各種統計における退学者の人数は氷山の一角に過ぎない。時にはそれが自主退学や転校の強要、無期限停学にして出席日数が足りずに留年、退学させるケースにつながることもある。強要罪が適用されたり、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められることもある。この場合、子ども専門の相談窓口を設けている弁護士会や法務局で相談することができる。
- 一部の大学では、優秀な学生が、通常の課程では3年以上、医学・歯学・獣医学・臨床に関わる薬学を履修する課程では4年以上在学することで、大学院に1年または2年早い段階で進学できる場合がある(いわゆる「飛び入学」)。このケースでは早期卒業制度がある場合は卒業することができるが、早期卒業制度がない場合は大学を退学しなければならない。
バブル崩壊後の1990年代以降では、高校や大学などの区別なく特に私立学校においては、倒産や失業、リストラなどで学費を払えずにやむなく退学するケースが増えている。2007年の高校野球の特待生問題では、奨学金の廃止により学費や部費、活動費が払えずに退学者が増えてしまうのではないかという懸念の声が上がった。
大学通信教育の場合、例えば、既卒者が既取得の免許状とは別の教育職員免許状(特別支援学校教諭免許状を含む)に必要な単位(実習[10]等を含め)を修得するために、科目等履修生での学籍では履修単位が多すぎるため(あるいは、正規の学生でなければ各実習に行くことが不可能なケースがある場合)に、便宜上正規の学生として在籍し、必要な単位が充足できた時点で中途退学・満期退学(卒業要件を単位数上[11]満たせば、単位取得満期)という選択をするケースもある。
社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士など、卒業に必修となる科目のほかに、指定科目等の単位修得だけでなく、課程認定大学の卒業が必須となるケースは、正規生(正科生)でなければならず、既卒者であっても改めて卒業を要するケースもある(なお、社会福祉士の場合は、課程認定大学のいずれかを卒業していれば、足りない指定科目のうち、実習指導・実習のみを卒業後に科目等履修生として充足することで、国家試験受験資格自体は得られるが、精神保健福祉士の場合は、実習を含めた指定科目をすべて充足して卒業しなければ国家試験受験資格が得られないという違いがある)。
退学者の年間規模
高等教育(大学・短大・高等専門学校)の退学者だけでも、全国で年間13万人以上いると推定されている[12]。
退学に対する評価
日本の場合、初等教育の課程(小学校の課程など)や前期中等教育の課程(中学校の課程、中等教育学校の前期課程など)では、大部分の生徒に対して義務教育が行われているため、転出などの場合を除き退学の例は珍しいが、現代の学校教育法(昭和22年法律第26号)に基づかない教育制度、すなわち同法施行以前の学校においては、義務教育年限が異なり、複線型学校体系であったことなどの理由から、退学も相応に見られた[13]。
中国
中国では、出産を理由とした退学処分が行われていた(学生の結婚、出産が2003年まで禁止されていたため)。政府は2007年8月に、既婚学生の出産を理由とした退学はしてはならないと規定し、併せて出産前後の休学を勧告した[14]。
イギリス
イギリスでは退学措置(Permanent exclusion)は学校理事会(規律委員会)の承認を得て学校長が判断することとなっている[15]。懲戒の決定は学校長の責任事項に属し、実際には学校長の決定が学校理事会でもそのまま承認されることが多い[15]。
学校長の退学措置に対しては審査委員会に不服を申し立てることができるが、学校長の退学措置処分が覆るケースは稀である[15]。
関連項目
入学 - 編入学
- 卒業
- 転学
除籍 (学籍)(在学者が死亡した場合は「退学」とはせず単に除籍扱いとなることもある)- 復学
高等学校卒業程度認定試験(高等学校を退学した者等に大学進学の機会を与えている。これは懲戒退学者でも可能)
独立行政法人大学評価・学位授与機構(大学を退学した者等に大学院進学の機会を与えている)
修了 - 終了
脚注
^ このため、正確には労働者の「解雇(=首)」とは異なるものの、退学させられた生徒・学生が「学校を首になる(なった)」と言うことがある。
^ 留年を許容する度合いは学校によって差異があるが、(高校の場合)在学中に1度だけ認める場合もあれば、1学年につき1度だけ認める場合もある(この場合、最大で3年間留年することができる)。
^ 学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第26条第2項
懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。
^ 学校教育法 第11条
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。
^ 博士の学位の授与が妥当とされると、学位請求論文は博士論文となる
^ 大学院設置基準第17条第1項
^ 文部科学省 中央教育審議会 平成17年(2005年)9月5日 答申 新時代の大学院教育 -国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて- 第2章-1-(1)-② 円滑な博士の学位授与の促進
^課程の修了に必要な単位は修得したが、標準修業年限内に博士論文を提出せずに退学したことを、いわゆる「満期退学」又は「単位取得後退学」と呼称し、制度的裏付けがあるかのような取扱いは、課程制大学院の本来の趣旨にかんがみると適切ではない。
— 3 課程制大学院の制度的定着の促進(1)課程制大学院の制度に沿った博士学位授与の確立 中央教育審議会大学分科会
^ ただし、大学院のケースを含め、卒業・修了要件の単位を充足を以って、「単位取得」として看做される場合もある。よって、卒業・修了要件の単位数(必修科目はすべて履修済みとして、これらの単位数に含まれているのが前提。例えば、学部であれば「卒業試験(卒業論文
なお、大学の学部の一般的な課程については、修業年限以上の期間を在学した後に自主退学しても「満期退学」の表現はあまり使われず、「中途退学」(「中退」)あるいは、単に「退学」と表記される(多くは、可能年数上限(標準年数の2倍)まで在籍し続けても卒業所要単位取得の目処が立たないため。明仁が公務との両立が出来ずに学習院大学を中退した例が典型)。
中途退学は、自主退学・懲戒退学のいずれの場合でも用いられるが、満期退学は、通例、自主退学の場合のみ用いられる(在籍可能年数を超えた場合は、「除籍」となる)。
この他、事例として、教育職員免許状の授与を受けている学部卒業者が、小学校教諭ないしは特別支援学校教諭免許状の授与を受けるために、(通信制を含む)大学に編入し、教育実習ないしはは一般的にゼミに包括される形を含めて単位にカウントされるため対象外)」、大学院であれば「修士論文・博士論文」の合格のみを満たしていない状況を、通常は指す)を充足していない場合は、「満期退学」あるいは「満期」としか表現できないケースもある。
^ 教育実習、介護実習、障害者教育実習など。
^ 必修科目はすべて単位修得済みという前提でとらえており、また、その他選択科目(いわゆる、教養科目等も含む)なども最低習得が必要な数を修得済みであることが前提。加えて、修士論文のように、単位数にはカウントされない卒業試験だけを受験せずに単位数だけは卒業要件を満たしたケースも該当。
^ 外部リンク
- 中退に関する基礎資料 第一章 中退の規模とリスク 第一節 中退の規模〜年間13万人以上が高等教育を中退
^ 中退に関する基礎資料 第一章 中退の規模とリスク 第二節 中退のリスク〜中退後約6割がずっとフリーターか無職
^ 『出産理由の退学処分を禁止=既婚学生の権利認める』2007年8月4日付配信 時事通信
- ^ abc下条美智彦『ヨーロッパの教育現場から』2003、86頁
外部リンク
- 中退に関する基礎資料 第一章 中退の規模とリスク 第一節 中退の規模〜年間13万人以上が高等教育を中退
- 日本中退予防研究所