夢
夢(ゆめ)とは、
睡眠中あたかも現実の経験であるかのように感じる、一連の観念や心像のこと[1]。睡眠中にもつ幻覚のこと[2]。
将来実現させたいと思っていること[2][1]。願望。願い。
本記事ではまず睡眠中の夢について解説し、将来への願望についてはその後に解説する。
視覚像として現れることが多いものの、聴覚・触覚・味覚・運動感覚などを伴うこともある[2][1]。通常、睡眠中はそれが夢だとは意識しておらず、目覚めた後に自分が感じていたことが夢だったと意識されるようになる[2]。
夢とは何なのか?ということについては、古代からある信仰者の理解、20世紀の心理学者の理解、現代の神経生理学者の理解、それぞれ大きく異なっているので、それらを区別しつつ解説する。
目次
1 古代から現代までの信仰と夢の理解
1.1 古代
1.2 神のお告げ
1.3 解釈
1.4 夢占い
2 心理学における夢の理解
3 神経生理学における夢の理解
3.1 夢の意義
3.2 夢の生成メカニズム
3.3 睡眠時に起こる外的現象
3.4 夢のメカニズム
3.5 夢の知覚
4 覚醒や意識レベルと夢との関係
4.1 明晰夢
4.2 白昼夢
5 夢と行事・習慣
6 将来への希望・願望としての夢
7 はかないこと
8 夢を主たるテーマにした作品
9 脚注
9.1 注釈
9.2 出典
10 参考文献
11 関連文献
12 関連項目
13 外部リンク
古代から現代までの信仰と夢の理解
古代
未開人や古代人の間には、睡眠中に肉体から抜け出した魂が実際に経験したことがらが夢としてあらわれるのだ、という考え方は広く存在した[3]。
神のお告げ
夢は神や悪魔といった超自然的存在からのお告げである、という考え方は世界中に見られる[3][4]。古代ギリシアでは、夢の送り手がゼウスやアポロンだと考えられていた[3]。『旧約聖書』でも、神のお告げとしての夢は豊富に登場する[3]。有名なところでは、例えばアビメレクの夢のくだりなどがある[3]。中世の神学者トマス・アクィナスは夢の原因には精神的原因、肉体的原因、外界の影響、神の啓示の四つがある、とした[3]。
解釈
バビロニアにおいては夢の解釈技法が発達し、夢解釈のテキストまで作られていた[3]。
古代の北欧でもやはり人々は夢解釈に習熟しており、ある種の夢に関しては、その解釈について一般的な意見が一致していたという[3]。たとえば、白熊の夢は東方から嵐がやってくる予告だ、と共通の認識があったという[3]。
ユダヤ法典には、エルサレムに12人の職業的夢解釈家がいたことが書かれている[3]。
ネイティブアメリカンの一部の部族には、夢を霊的なお告げと捉え、朝起きると家族で見た夢の解釈をし合う習慣がある。
古代ギリシャにおいて夢は神託であり、夢の意味するものはそのままの形で夢に現れているため「解釈を必要としない」(アルテミドロス)と考えられていた[5]。
夢占い
夢占い(あるいは夢判断)では、夢は見た者の将来に対する希望・願望を指すか、これから起き得る危機を知らせる信号と考えられている。また、夢でみた現象がそのまま実現する夢を予知夢と呼び、可能性がある夢を詳細に検討する場合もある。
東洋で古来からの夢占いの解説書として用いられてきたものに真書、偽書などの諸説はあるものの、周公解夢全書や神霊感応夢判断秘蔵書(伝、安倍晴明著)などがあり、日本での夢占いの分野における参考書的存在や底本として用いられる場合がある。
心理学における夢の理解
深層心理学においては、無意識の働きを意識的に把握するための夢分析という研究分野がある。
夢分析の古典としてはジークムント・フロイトの研究、あるいはカール・ユングの研究が広く知られている。そこでは夢の中の事物は、何かを象徴するものとして位置づけられている。これらは神経症の治療という臨床的立場から発展しており、夢分析は心理的側面からの神経症の治療を目的とした精神分析のための手法の一つである[6]。
フロイトは『夢判断』で、人が体験する夢を manifest dream(顕在夢)と呼び、それは無意識的に抑圧された幼児期由来の願望と、この願望と結びついた昼間の体験の残滓からなる夢のlatent thought(潜在思考)が、検閲を受けつつdream work(夢の仕事)によって加工され歪曲されて現れたものだ、とした[7][8]。
ただし、フロイトによる夢分析に限ると、性的な事象に紐付けられた説明があまりに多く、そのまま現代人や日本人に適用するのは無理がある、とする説も多い(例えば、銃が男性器を、果実が女性器を、動物が性欲や性行為を象徴するなどとされたりした。これには、当時の禁欲的な世相が反映されているとする説や、フロイト自身が抑圧された性的願望を抱いていたために偏った解釈をしているとみる説が多い)。
カール・ユングは、夢は、意識的な洞察よりもすぐれた智慧をあらわす能力があるとし[3]、夢は基本的に宗教的な現象だとした[3]。ユングによると、人間の無意識のさらに深い領域には全人類に共有されている集合的無意識があり、古代から継承されたアーキタイプ(元型)が宗教・神話・夢といった象徴の形で現れる[3]とされる。
エーリヒ・フロムは、象徴というのは人類がかつて使っていた言語だが現代人はそれを忘れてしまっているのであって、夢というのはその象徴という言語で語られる無意識の経験であるとし[3]、象徴の解釈によりその真の意味を理解することが可能だとする[3][9]。
現在では夢分析も改良され、広く現代人の実情を考慮した分析が多い。自分で自分の夢分析をするためのガイドブックや事典なども出版されており、何がしらの自己分析・自己発見の役に立つことも多いようである。
神経生理学における夢の理解
夢の意義
睡眠中には脳が、過去に見聞きした情報をジャンルごとに整理する。ジャンルは例えば「小学校時代」、「大学時代」、「友達」、「家族」、「恋愛」、「仕事」などに分けられ、ジャンル分けされた記憶の倉庫から引き出したり、まとめたりの作業を脳が睡眠中に行っているが、その過程を脳内で再生している状態が夢だと言われている。いわば、自分だけが見ることのできる、「個人的なドキュメンタリー映画」のようなものである。従って、睡眠環境から取り込まれた刺激以外は、体験したことや実際に目にしたものが断片的に組み合わされ、脳内でストーリー化してゆく。ただし、子供はテレビ、絵本、漫画などの外部刺激に夢の内容が左右されやすく、実体験以外の映像や想像などの要素でも、それらが組み合わさり夢になることがある。夢の内容は、最近の夢に関する調査の際の頻出語から、高齢者では、「旅行」、「仕事」、「トイレ」、「母」などが多く、大学生では、「友達」、「遊ぶ」、「サークル」、高校生は「友達」、「学校」、「クラス」、「部活動」など、どの年代を通しても生活上上、密接に関わっている言葉が多く確認されている。この結果から、自我の確立する高校生以上の年代では、日常の実体験を元により日常に近い内容で夢が構成されているといえる[10]
夢の生成メカニズム
現代の神経生理学的研究では、「夢というのは、主としてレム睡眠の時に出現するとされ、睡眠中は感覚遮断に近い状態でありながら、大脳皮質や(記憶に関係のある)辺縁系の活動水準が覚醒時にほぼ近い水準にあるために、外的あるいは内的な刺激と関連する興奮によって脳の記憶貯蔵庫から過去の記憶映像が再生されつつ、記憶映像に合致する夢のストーリーをつくってゆく」と考えられている、と言う[7]。
入眠時に図形や模様、人の顔などのビジョンや、音楽や話し声などが不随意に発生する現象がある。これらの不随意な心象現象は「入眠時幻覚」と呼ばれ、厳密には夢とは別のものとして扱われる[11]。上述のように夢には連続性やストーリー、夢を見る人の視点が備わっているが、入眠時幻覚は概ね感覚的で個人の経験とはかけ離れており、両者の生成プロセスは異なると考えられている。
睡眠時に起こる外的現象
睡眠時は本来ならば何も感じていないと考えられる大脳が覚醒時と同様な活動状態を示す脳波になる。時にはその活動に刺激されて反射運動がみられる場合がある。この反射運動には、寝ている状態で手足を動かす、声を発する(つまりは寝言)などある。寝言の中には歌を歌いだすという報告もある。
反射行動の中には日常生活では見られない行動、奇異であり不思議な行動が見受けられる。フロイトの報告によれば、普段聞きなれているのだが、発音できなかった(もしくは上手でない)外国語を突然、流暢に喋りだすという事例がある。また、睡眠中に突然起き上がり歩き回るが覚醒時にはその記憶が残っていないなど、その行動が顕著な場合に夢遊病と呼ぶことがある。
夢のメカニズム
メカニズムについては不明確な部分が多く、研究対象となっている。
例えば、夢は浅い眠りに陥るレム睡眠中に見るとされ、一般的にはノンレム睡眠時は発現されないと考えられていた。しかし、ノンレム睡眠時にも夢を見ると考える研究者も多く、そうした研究も続けられている[12]。
夢を見る理由については現在のところ不明である。
夢の知覚
夢は、人によってさまざまであり、同一の人でも知覚する現象が千差万別である。
尿意が夢に反映されやすいのは良く知られており、排泄に関わる夢を見て目が覚めたら、膀胱が限界に近かったという事例は非常にありふれている。
夢の知覚には、性別や年齢によって傾向があるといわれる。
夢では視覚だけではなく、聴覚・触覚・味覚・嗅覚においても何らかの刺激を感じるといった報告がある。上記の通り、どの感覚においても、人によってさまざまであり、同一の人でも時には感じないこともある。
覚醒や意識レベルと夢との関係
寝ながら見る夢では、その人の普段は抑圧されて意識していない願望などが如実に現れるケースも多いとされる。ただ、それらは誇張されていることも多く、結果的に現実としては不可解な現象で表現されることが多い。
また、普段の生活から興味がある現象について夢を見やすいといわれている。具体的には色に興味がある人は色が付いた夢を見る、などである。
覚醒時に考えていた(悩んでいた)事が影響するケースも多く、考えていたテーマに新しい着想を夢の中より得た事例もある。ブラム・ストーカーは、カニを食べ過ぎて悪夢を見て、これを元に恐怖小説『ドラキュラ』を書き上げている[13]。
この他にも、重要な発見や発明、芸術作品など、夢で得たイメージを元としている事例は多い。
明晰夢
通常、夢を見ているときには自分で夢を見ていると自覚できないことがほとんどであり、覚醒するまでは夢であることが分からない。これに対し、夢の中でも自覚している現象を明晰夢と呼び、その場合には夢の内容をコントロールすることも可能であると言われる。このため、望むままに夢が変化することも多いため(現実ではないが)願望を叶えることができるとされる。
白昼夢
白昼夢(白日夢)とも呼ばれる。目覚めていながら夢を見ているかのように現実から離れて何かを考えている状態をいう。空想や妄想と同様、夢を見ている自分を自覚できること、夢の内容を自分でコントロールすることができるという点で、通常の夢とは異なる。
夢と行事・習慣
- 1月1日の夜から2日の朝にかけて見る夢または、2日から3日の朝にかけて見る夢を初夢という。
寝言に返事をしてはいけないという俗信がある。答えてしまうとその人は目を覚まさないといわれている。[要出典]
将来への希望・願望としての夢
夢という語は、将来実現させたいと思っていることも指す。 日本語のこのような意味で「夢」を表すのは比較的新しく、明治時代に「dream」の訳語として出てきたのが広義の願望などといった例にも適用された表現である[要出典]。
はかないこと
夢には、はかないこと、たよりないこと、という意味もある[2][1]。
「夢物語」という表現は、夢のようなはかない物語、という意味である[2][14]。フィクション、つくりごと、という意味をこめた「物語」と合わせて、現実からほど遠いことが強調されている。その内容があまりに現実から遠く、はかないことを形容するためにしばしば用いられている。
夢を主たるテーマにした作品
睡眠時に見る夢と、あるいは将来への願望を意味する夢のどちらかを主題(主たるテーマ)にしている作品の一覧である。
- 文学作品
夢十夜(夏目漱石、1908年 - )
豊饒の海(三島由紀夫、1965年 - )
ドグラ・マグラ(夢野久作、1935年)
笑う月(安部公房、1975年)- 夢宮殿(イスマイル・カダレ、1981年)
- 絵画
シュールレアリスム(アンドレ・ブルトン、ルネ・マグリット、サルバドール・ダリなど)
- 音楽
- 夢(クロード・アシル・ドビュッシー)
ヴァイオリン・ソナタ ト短調(悪魔のトリル)(ジュゼッペ・タルティーニ、18世紀)- 夢織り人 (ゲイリー・ライト)
- アメコミ
ドリームホッパーズ - 2009年に全米でライゼン・コミックス刊行のヒーローコミック。小山田真が主人公として描かれている。
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小説
パプリカ(筒井康隆、1991 - 1993年)
映画
夢(黒澤明、1990年)
ザ・セル(ターセム・シン、2000年)
パプリカ(今敏、2006年)
インセプション(クリストファー・ノーラン、2010年)
脚注
注釈
出典
- ^ abcdデジタル大辞泉【夢】
- ^ abcdef広辞苑第五版 p.2729【夢】
- ^ abcdefghijklmno『宗教学辞典』pp.733-734【夢】
^ 超自然的存在からのお告げ、という概念に関しては、啓示、預言、天啓などの項目も参照可
^ 川嵜 (2005) 112-113頁。
^ 川嵜 (2005) 28-31頁。
- ^ ab『岩波 哲学思想事典』pp.1628
^ 川嵜 (2005) 42-46頁。
^ Fromm, The Forgotten Language, 1951
^ “Yahoo!ニュース - 現代ビジネス「夢をコントロールする方法」は、やっぱり存在します - 東洋大学社会学部社会心理学科教授松田英子先生 7/17(火) 13:00配信”. 2018年7月20日閲覧。
^ オリヴァー・サックス 『見てしまう人々:幻覚の脳科学』 大田直子訳、早川書房、2014年。ISBN 9784152094964。pp.239-260.
^ 鈴木 (2005, pp. 199,203)
^ Look and Learn #893, 3 March 1979
^ 広辞苑第五版に【ゆめがたり】に同じ、とあり、【ゆめがたり】で、表記の説明がある。
参考文献
- 『宗教学辞典』東京大学出版会、1973
- 『岩波 哲学思想事典』1998
- 川嵜克哲 『夢の分析-生成する<私>の根源』 講談社、2005年。ISBN 978-4062583190。
- 鈴木博之「夢とREM, NREM睡眠 : 夢はいつ起こっているのか(<特集>眠り) (PDF) 」 、『バイオメカニズム学会誌』第29巻第4号、2005年11月1日、 NAID 110004820304。
関連文献
- 河東仁 『日本の夢信仰』宗教学から見た日本精神史 玉川大学出版部 ISBN 4472402645
- 松田英子(2006)「 P-2318 快適夢見睡眠とパーソナリティに関する心理生理学的研究」NAID 110006429261
関連項目
- 睡眠
- 夢分析
- 明晰夢
- 悪夢
- 金縛り
外部リンク
夢 - 脳科学辞典