自由エネルギー












統計力学

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熱力学 · 気体分子運動論




























自由エネルギー(じゆうエネルギー、英: free energy)とは、熱力学における状態量の1つであり、化学変化を含めた熱力学的系の等温過程において、系の最大仕事(潜在的な仕事能力)、自発的変化の方向、平衡条件などを表す指標となる[1][2]


自由エネルギーは1882年にヘルマン・フォン・ヘルムホルツが提唱した熱力学上の概念で、呼称は彼の命名による。一方、等温等圧過程の自由エネルギーと化学ポテンシャルとの研究はウィラード・ギブズにより理論展開された。
等温等積過程の自由エネルギーはヘルムホルツの自由エネルギーHelmholtz free energy)と呼ばれ、等温等圧過程の自由エネルギーはギブズの自由エネルギーGibbs free energy)と呼びわけられる。ヘルムホルツ自由エネルギーは F で表記され、ギブズ自由エネルギーは G で表記されることが多い。両者の間には G = F + pV の関係にあり、体積変化が系外に為す仕事 pV の分だけ異なる。


熱力学第二法則より、系は自由エネルギーが減少する方向に進行する。また、閉じた系における熱力学的平衡条件は自由エネルギーが極小値をとることである。




目次






  • 1 ヘルムホルツの自由エネルギー


    • 1.1 完全な熱力学関数


    • 1.2 等温過程


    • 1.3 統計力学との関係




  • 2 ギブズの自由エネルギー


    • 2.1 定義


    • 2.2 完全な熱力学関数


    • 2.3 等温等圧過程


    • 2.4 平衡定数との関係




  • 3 脚注


  • 4 参考文献


  • 5 関連項目


  • 6 外部リンク





ヘルムホルツの自由エネルギー


ヘルムホルツの自由エネルギー(英語: Helmholtz free energy)は、等温条件の下で仕事として取り出し可能なエネルギーを表す示量性状態量である。なお、IUPACでは「自由」を付けずにヘルムホルツエネルギー(英語: Helmholtz energy)とすることが推奨されている[3]。記号 FA で表されることが多い。


内部エネルギー U、熱力学温度 T、エントロピー S として、ヘルムホルツエネルギーは



F=U−TS{displaystyle F=U-TS}F=U-TS



で定義される。



完全な熱力学関数



熱力学温度 T、体積 V、物質量 N の関数として表されたヘルムホルツエネルギー F(T,V,N) は完全な熱力学関数となる。
このように見たとき、定義式は完全な熱力学関数としての内部エネルギー U(S,V,N)S に関するルジャンドル変換



F(T,V,N)=U(S(T,V,N),V,N)−TS(T,V,N){displaystyle F(T,V,N)=U(S(T,V,N),V,N)-T,S(T,V,N)}F(T,V,N)=U(S(T,V,N),V,N)-T,S(T,V,N)



と見ることができる。


ヘルムホルツエネルギー F(T,V,N) の各変数による偏微分は


(∂F∂T)V,N=−S(T,V,N)(∂F∂V)T,N=−p(T,V,N)(∂F∂Ni)T,V,Nj=μi(T,V,N){displaystyle {begin{aligned}left({frac {partial F}{partial T}}right)_{V,N}&=-S(T,V,N)\left({frac {partial F}{partial V}}right)_{T,N}&=-p(T,V,N)\left({frac {partial F}{partial N_{i}}}right)_{T,V,N_{j}}&=mu _{i}(T,V,N)end{aligned}}}{displaystyle {begin{aligned}left({frac {partial F}{partial T}}right)_{V,N}&=-S(T,V,N)\left({frac {partial F}{partial V}}right)_{T,N}&=-p(T,V,N)\left({frac {partial F}{partial N_{i}}}right)_{T,V,N_{j}}&=mu _{i}(T,V,N)end{aligned}}}

で与えられる。
ここで、p は圧力、μi は成分 i の化学ポテンシャルを表す。
従って、全微分は



dF=−S(T,V,N)dT−p(T,V,N)dV+∑i(T,V,N)dNi{displaystyle dF=-S(T,V,N),dT-p(T,V,N),dV+sum _{i}mu _{i}(T,V,N),dN_{i}}dF=-S(T,V,N),dT-p(T,V,N),dV+sum _{i}mu _{i}(T,V,N),dN_{i}



となる。


系のスケール変換を考えると



F=−pV+∑iNiμi{displaystyle F=-pV+sum _{i}N_{i}mu _{i}}{displaystyle F=-pV+sum _{i}N_{i}mu _{i}}



の関係が得られる。



等温過程


温度 Tex の環境にある系が、ある平衡状態から別の平衡状態へ変化する過程を考える。熱力学第二法則により、系が外部から受け取る熱 Q には上限が存在する。



Q≤TexΔS{displaystyle Qleq T_{text{ex}}Delta S}Qleq T_{{text{ex}}}Delta S



この不等式とエネルギー保存則から、系が外部に為す仕事 W にも上限が存在する。



W=Q−ΔU≤TexΔS−ΔU{displaystyle W=Q-Delta Uleq T_{text{ex}}Delta S-Delta U}{displaystyle W=Q-Delta Uleq T_{text{ex}}Delta S-Delta U}



等温条件下では変化の前後で系の温度は外界の温度と等しく T=Tex なので、ヘルムホルツエネルギーの定義から



ΔF=Δ(U−TexS)=ΔU−TexΔS{displaystyle Delta F=Delta (U-T_{text{ex}}S)=Delta U-T_{text{ex}}Delta S}{displaystyle Delta F=Delta (U-T_{text{ex}}S)=Delta U-T_{text{ex}}Delta S}



となり、不等式



W≤ΔF{displaystyle Wleq -Delta F}Wleq -Delta F



が成り立つ。この場合の仕事 W は膨張仕事および非膨張仕事のすべてを含んでいる。


すなわち、温度 Tex の環境にある系が状態 X0 から X1 へと変化する間に外部に為す仕事 W には上限 Wmax が存在する。



W(Tex;X0→X1)≤Wmax(Tex;X0,X1){displaystyle W(T_{text{ex}};X_{0}to X_{1})leq W_{text{max}}(T_{text{ex}};X_{0},X_{1})}W(T_{{text{ex}}};X_{0}to X_{1})leq W_{{text{max}}}(T_{{text{ex}}};X_{0},X_{1})



この Wmax はヘルムホルツエネルギーを用いると



Wmax(Tex;X0,X1)=F(Tex;X0)−F(Tex;X1){displaystyle W_{text{max}}(T_{text{ex}};X_{0},X_{1})=F(T_{text{ex}};X_{0})-F(T_{text{ex}};X_{1})}W_{{text{max}}}(T_{{text{ex}}};X_{0},X_{1})=F(T_{{text{ex}}};X_{0})-F(T_{{text{ex}}};X_{1})



と表され、変化の前後でのヘルムホルツエネルギーの減少量が等温条件において取り出し可能な仕事量である。


等温条件下で外部に一切の仕事を行わない場合、とくに、等温等積で非膨張仕事も行わない場合は



ΔF≤W=0{displaystyle Delta Fleq -W=0}Delta Fleq -W=0



となり、自発変化はヘルムホルツエネルギーが減少する方向へ進む。
また熱力学的平衡条件はヘルムホルツエネルギーが極小値をとることである。



統計力学との関係


統計力学では、カノニカルアンサンブルと関係付けられる。
分配関数 Z(β) を用いて、



F(β)=−ln⁡Z(β){displaystyle F(beta )=-{frac {1}{beta }}ln Z(beta )}F(beta )=-{frac  {1}{beta }}ln Z(beta )



と表される。
これはミクロとマクロをつなぐボルツマンの関係



S=kln⁡W{displaystyle S=kln W}S=kln W



から導かれる。



ギブズの自由エネルギー


ギブズ自由エネルギー(英語: Gibbs free energy)は、熱力学や電気化学などで用いられる、等温等圧条件下で非膨張の仕事として取り出し可能なエネルギーを表す示量性状態量である。非膨張の仕事の例としては電池反応による電気的な仕事があり、ギブズ自由エネルギーの減少量は等温等圧条件下で系から取り出し可能な電気エネルギーを表す。なお、IUPACではギブズエネルギーGibbs energy)という名称の使用を勧告している[4]
通常は記号 G で表される。



等温等圧条件下ではギブズ自由エネルギーは自発的に減少しようとする。即ち、Gの変化が負であれば化学反応は自発的に起こる。さらに、ギブズエネルギーが極小の一定値を取ることは系が平衡状態にあることに等しい。



これは、ヘルムホルツの自由エネルギーに関する



等温等積条件下ではヘルムホルツの自由エネルギーは自発的に減少しようとする。即ち、Fの変化が負であれば化学反応は自発的に起こる。さらに、ヘルムホルツの自由エネルギーが極小の一定値を取ることは系が平衡状態にあることに等しい。



と対応している。



定義


エンタルピー H、熱力学温度 T、エントロピー S として、ギブズエネルギーは



G=H−TS{displaystyle G=H-TS}G=H-TS



で定義される[1]。あるいは、ヘルムホルツエネルギー F、 圧力 p、体積 V を用いて



G=F+pV{displaystyle G=F+pV}G=F+pV



で定義されることもある。内部エネルギーを U とすると、エンタルピーの定義 H=U+pV、或いはヘルムホルツエネルギーの定義 F=UTS より



G=U−TS+pV{displaystyle G=U-TS+pV}G=U-TS+pV



が得られる。



完全な熱力学関数


熱力学温度 T、圧力 p、物質量 N を変数にもつ関数として表されたギブズエネルギー G(T,p,N) は完全な熱力学関数である。このように見たとき、定義式は完全な熱力学関数としてのエンタルピー H(S,p,N)S に関するルジャンドル変換



G(T,p,N)=H(S(T,p,N),p,N)−TS(T,p,N){displaystyle G(T,p,N)=H(S(T,p,N),p,N)-T,S(T,p,N)}G(T,p,N)=H(S(T,p,N),p,N)-T,S(T,p,N)



と見ることができる。
ヘルムホルツエネルギーを用いた定義では、V に関するルジャンドル変換



G(T,p,N)=F(T,V(T,p,N),N)+pV(T,p,N){displaystyle G(T,p,N)=F(T,V(T,p,N),N)+p,V(T,p,N)}G(T,p,N)=F(T,V(T,p,N),N)+p,V(T,p,N)



と見ることができる。


ギブズエネルギー G(T,p,N) の各変数による偏微分は


(∂G∂T)p,N=−S(T,p,N)(∂G∂p)T,N=V(T,p,N)(∂G∂Ni)T,p,Nj=μi(T,p,N){displaystyle {begin{aligned}left({frac {partial G}{partial T}}right)_{p,N}&=-S(T,p,N)\left({frac {partial G}{partial p}}right)_{T,N}&=V(T,p,N)\left({frac {partial G}{partial N_{i}}}right)_{T,p,N_{j}}&=mu _{i}(T,p,N)end{aligned}}}{displaystyle {begin{aligned}left({frac {partial G}{partial T}}right)_{p,N}&=-S(T,p,N)\left({frac {partial G}{partial p}}right)_{T,N}&=V(T,p,N)\left({frac {partial G}{partial N_{i}}}right)_{T,p,N_{j}}&=mu _{i}(T,p,N)end{aligned}}}

で与えられる。
ここで μi は成分 i の化学ポテンシャルを表す。
従ってギブズエネルギー G(T,p,N) の全微分は



dG=−S(T,p,N)dT+V(T,p,N)dp+∑i(T,p,N)dNi{displaystyle dG=-S(T,p,N),dT+V(T,p,N),dp+sum _{i}mu _{i}(T,p,N),dN_{i}}dG=-S(T,p,N),dT+V(T,p,N),dp+sum _{i}mu _{i}(T,p,N),dN_{i}



となる。この式は化学熱力学の基本方程式と呼ばれることがある[5]


系のスケール変換を考えると、



G=∑iNiμi{displaystyle G=sum _{i}N_{i}mu _{i}}G=sum _{i}N_{i}mu _{i}



の関係が得られる。



等温等圧過程


温度 Tex、圧力 pex の環境にある系の状態変化を考える。
等温条件下では定義から



ΔG=ΔH−TexΔS{displaystyle Delta G=Delta H-T_{text{ex}}Delta S}Delta G=Delta H-T_{{text{ex}}}Delta S



が導かれる。
また、熱力学第二法則から



Q≤TexΔS{displaystyle Qleq T_{text{ex}}Delta S}Qleq T_{{text{ex}}}Delta S



であるが、非膨張仕事がない等圧条件下では系が得た熱がエンタルピーの変化と等しいので



Q=ΔH≤TexΔS{displaystyle Q=Delta Hleq T_{text{ex}}Delta S}Q=Delta Hleq T_{{text{ex}}}Delta S



となる。これらを合わせると、非膨張仕事がないときには、等温等圧条件から



ΔG≤0{displaystyle Delta Gleq 0}Delta Gleq 0



が得られる。
等温等圧の条件下では、非膨張仕事がなければ自発変化はギブズエネルギーが減少する方向へ進む。また熱力学的平衡条件はギブズエネルギーが極小値をとることである。



平衡定数との関係


定圧定温条件での化学反応における標準反応ギブズエネルギーは標準反応エンタルピーおよび標準反応エントロピーと以下の関係がある。



ΔG∘H∘S∘{displaystyle Delta G^{circ }=Delta H^{circ }-TDelta S^{circ }}{displaystyle Delta G^{circ }=Delta H^{circ }-TDelta S^{circ }}



標準反応ギブズエネルギーと平衡定数Kとの間には以下のような関係がある。ここで R は気体定数である。


ΔG∘=−RTln⁡K⟺K=exp⁡(−ΔG∘RT){displaystyle Delta G^{circ }=-RTln Kiff K=exp left(-{frac {Delta G^{circ }}{RT}}right)}{displaystyle Delta G^{circ }=-RTln Kiff K=exp left(-{frac {Delta G^{circ }}{RT}}right)}

標準環境温度(25 ℃ = 298.15 K)においては以下のようになる。


ΔG∘/kJ mol−1=−5.708log10⁡K{displaystyle Delta G^{circ }/mathrm {kJ~mol^{-1}} =-5.708log _{10}K}{displaystyle Delta G^{circ }/mathrm {kJ~mol^{-1}} =-5.708log _{10}K}

また標準電極電位との関係は以下の通りである。ここで n は電池反応の半反応式における電子の化学量論係数、 F はファラデー定数である。



E∘=−ΔG∘nF{displaystyle E^{circ }=-{frac {Delta G^{circ }}{nF}}}{displaystyle E^{circ }=-{frac {Delta G^{circ }}{nF}}}



電池ではギブズエネルギー変化が負の値を取る向きに起電力が発生する。



脚注


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  1. ^ abChang『生命科学系のための物理化学』 pp.63-65


  2. ^ アトキンス『物理化学(上)』 pp.120-125


  3. ^ IUPAC Gold Book


  4. ^ IUPAC Gold Book


  5. ^ ボール『物理化学』 p.126




参考文献



  • Raymond Chang 『生命科学系のための物理化学』 岩澤康裕、北川 禎三、濱口 宏夫 訳、東京化学同人、2006年。ISBN 4807906453。

  • P. W. Atkins 『物理化学(上) 第6版』 千葉秀昭、中村亘夫 訳、東京化学同人、2001年。ISBN 8079-0529-5。

  • Daveid W. Ball 『物理化学(上)』 田中一義、阿竹徹 他、化学同人、2004年。ISBN 4-7598-0977-5。



関連項目



  • 化学ポテンシャル

  • エクセルギー



外部リンク



  • “IUPAC Gold Book - Helmholtz energy (function)”. 2015年1月24日閲覧。

  • “IUPAC Gold Book - Gibbs energy (function)”. 2015年1月24日閲覧。




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