期待値
確率論において、期待値(きたいち、英: expected value)または平均は、確率変数の実現値を, 確率の重みで平均した値である。
例えば、ギャンブルでは、掛け金に対して戻ってくる「見込み」の金額をあらわしたものである。ただし、期待値ぴったりに掛け金が戻ることを意味するのではなく、各試行で期待値に等しい掛け金が戻るわけでもない。
目次
1 定義
1.1 離散型確率変数
1.2 連続型確率変数
1.3 日本工業規格
2 性質
3 計算法
4 例
4.1 サイコロの期待値
4.2 くじ引きの期待値
5 脚注
6 参考文献
7 関連項目
定義
離散型確率変数
確率空間を (Ω, F, P) としたとき、実現値の集合 {x1 , x2 , ...} が高々可算個である離散型確率変数に対して、
E[X]=∑i=1∞xiP(X=xi){displaystyle E[X]=sum _{i=1}^{infty }x_{i}P(X=x_{i})}
と書く。
連続型確率変数
確率空間を (Ω, F, P) としたとき、実現値の集合が実数などの連続的な集合である連続型確率変数の場合、期待値は可積分な確率変数 X に対して
E[X]=∫ΩX(ω)dP(ω){displaystyle E[X]=int _{Omega }X(omega ),dP(omega )}
で定義される。ただし確率変数 X が可積分であるとは、
∫Ω|X(ω)|dP(ω)<∞{displaystyle int _{Omega }|X(omega )|,dP(omega )<infty }
を満たすことであり、この積分は抽象的なルベーグ積分である。
事象 A ∈ F に対して、
E[X:A]=E[1AX]=∫AX(ω)dP(ω){displaystyle E[X:A]=E[1_{A}X]=int _{A}X(omega ),dP(omega )}
と書いて期待値をとる範囲を A に制限する。ここで 1A は指示関数である。
日本工業規格
日本工業規格では、値 xi が出現する確率を pi = Pr{X = xi} とする離散分布に対する期待値と、確率密度関数 f(x) を持つ連続分布の期待値を定義している。多数回の測定を行い測定値の平均を求めると、期待値に近い値になる。関数 g(X) の期待値 E[g(X)] も同様に定義している。また、条件付き分布の期待値を条件付き期待値、X,Y の同時分布に関し、条件 Y = y の下での X の条件付き期待値が y の関数になること、確率変数 X の期待値を X の母平均ということを紹介している。[1]。
性質
期待値は総和や積分によって定義されるので、総和や積分のもつ性質をすべて持っている。以下、X と Y を確率変数、a と b を任意のスカラーとする。
- 線形性
- E[aX+bY]=aE[X]+bE[Y]{displaystyle E[aX+bY]=aE[X]+bE[Y]}
- E[aX+bY]=aE[X]+bE[Y]{displaystyle E[aX+bY]=aE[X]+bE[Y]}
- 単調性
- X≤Y⇒E[X]≤E[Y]{displaystyle Xleq YRightarrow E[X]leq E[Y]}
- X≤Y⇒E[X]≤E[Y]{displaystyle Xleq YRightarrow E[X]leq E[Y]}
イェンゼンの不等式: 凸関数 φ に対して、
- φ(E[X])≤E[φ(X)]{displaystyle varphi (E[X])leq E[varphi (X)]}
- φ(E[X])≤E[φ(X)]{displaystyle varphi (E[X])leq E[varphi (X)]}
チェビシェフの不等式: (0, ∞) 上で定義された正値単調増加関数 φ と任意の正の数 ε に対して、
- P(|X|>ε)≤E[φ(X)]φ(ε){displaystyle P(|X|>varepsilon )leq {frac {E[varphi (X)]}{varphi (varepsilon )}}}
- P(|X|>ε)≤E[φ(X)]φ(ε){displaystyle P(|X|>varepsilon )leq {frac {E[varphi (X)]}{varphi (varepsilon )}}}
さらに、2つの可積分な確率変数 X と Y が独立の場合は、
- E[XY]=E[X]E[Y]{displaystyle E[XY]=E[X]E[Y]}
が成立する。
計算法
連続型確率変数の期待値はルベーグ積分で定義されているので、計算するときには積分の変数変換をおこなって確率変数の分布で積分するのが普通である。確率変数 X の分布を PX とすると、任意の可測関数 f に対して
E[f(X)]=∫Ωf(X(ω))dP(ω)=∫Rf(x)PX(dx){displaystyle E[f(X)]=int _{Omega }f(X(omega )),dP(omega )=int _{mathbb {R} }f(x),P_{X}(dx)}
となり、さらに PX が確率密度関数 p を持つときは
E[f(X)]=∫Rf(x)p(x)dx{displaystyle E[f(X)]=int _{mathbb {R} }f(x)p(x),dx}
により、ルベーグ測度で計算できるようになる。
例
サイコロの期待値
6 面体のサイコロを 1 回振るものとして、その時に出る目の期待値を考える。出る目の確率はすべて 1⁄6 とする。
E=1×16+2×16+3×16+4×16+5×16+6×16=216=3.5{displaystyle E=1times {frac {1}{6}}+2times {frac {1}{6}}+3times {frac {1}{6}}+4times {frac {1}{6}}+5times {frac {1}{6}}+6times {frac {1}{6}}={frac {21}{6}}=3.5}
となり、サイコロの出る目の期待値は 3.5 だということがわかる。
くじ引きの期待値
次のようなゲームを考える。
- 100 円支払えば、6 面サイコロ 1 個を 1 回振ることができる。
- サイコロの目に応じて、次の金額を貰える。
- 1 : 20 円
- 2 : 50 円
- 3 : 100 円
- 4 : 100 円
- 5 : 150 円
- 6 : 150 円
このとき、もらえる金額の期待値を求めると、
E=20×16+50×16+100×16+100×16+150×16+150×16=95{displaystyle E=20times {frac {1}{6}}+50times {frac {1}{6}}+100times {frac {1}{6}}+100times {frac {1}{6}}+150times {frac {1}{6}}+150times {frac {1}{6}}=95}
である。得られる金額の期待値 95 円が参加費 100 円を下回ることから、このゲームは参加者が得をする可能性もあるものの平均的には損をするということが分かる。特に回数を増やすほど、試行ごとに 5 円の損をした状態に限りなく近づく。
脚注
^ JIS Z 8101-1 : 1999 統計 − 用語と記号 − 第1部:確率及び一般統計用語 1.12 期待値, 日本規格協会, http://kikakurui.com/z8/Z8101-1-1999-01.html
参考文献
- 西岡康夫 『数学チュートリアル やさしく語る 確率統計』 オーム社、2013年。ISBN 9784274214073。
- 伏見康治 『確率論及統計論』 河出書房、1942年。ISBN 9784874720127。
- 日本数学会 『数学辞典』 岩波書店、2007年。ISBN 9784000803090。
JIS Z 8101-1:1999 統計 − 用語と記号 − 第1部:確率及び一般統計用語, 日本規格協会, http://kikakurui.com/z8/Z8101-1-1999-01.html
関連項目
確率論
モーメント - 分散
- 特性関数
- 条件付期待値
サンクトペテルブルクのパラドックス - 期待値が求められない例- 大数の法則