笙
笙 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
各言語での名称 | ||||||||||
| ||||||||||
笙 (岐阜城資料館) | ||||||||||
分類 | ||||||||||
リード | ||||||||||
関連楽器 | ||||||||||
|
笙(しょう)とは、雅楽などで使う管楽器の1つ。フリーリード類に属する。同様の楽器が東アジア各地に見られる。中国名・ション (Sheng)。
目次
1 概要
2 竹の順番
3 合竹
4 著名な笙奏者
5 笙製作者
6 脚注
7 関連項目
8 外部リンク
概要
日本には奈良時代ごろに雅楽とともに伝わってきたと考えられている。雅楽で用いられる笙は、その形を翼を立てて休んでいる鳳凰に見立てられ、鳳笙(ほうしょう)とも呼ばれる。匏(ほう)
と呼ばれる部分の上に17本の細い竹管を円形に配置し、竹管に空けられた指穴を押さえ、匏の横側に空けられた吹口より息を吸ったり吐いたりして、17本のうち15本の竹管の下部に付けられた金属製の簧(した:リード)を振動させて音を出す。
音程は簧の固有振動数によって決定し、竹管で共鳴させて発音する。パイプオルガンのリード管と同じ原理である。いくつかの竹管には屏上(びょうじょう)と呼ばれる長方形の穴があり、共鳴管としての管長は全長ではなくこの穴で決まる。そのため見かけの竹管の長さと音程の並びは一致しない。屏上は表の場合と裏の場合があるが、表の場合は装飾が施されている。指穴を押さえていない管で音が出ないのは、共鳴しない位置に指穴が開けられているためである。
ハーモニカと異なり、吸っても吹いても同じ音が出せるので、他の吹奏楽器のような息継ぎが不要であり、同じ音をずっと鳴らし続けることも出来る(呼吸を替える時に瞬間的に音量が低下するのみ)。押さえる穴の組み合わせを変えることで11種類の合竹(あいたけ)と呼ばれる和音を出すことができる。通常の唐楽では基本の合竹による奏法が中心であるが、調子、音取、催馬楽、朗詠では一竹(いっちく:単音で旋律を奏すること)や特殊な合竹も用いる。高麗楽では用いられない。
その音色は天から差し込む光を表すといわれている。
構造上、呼気によって内部が結露しやすく、そのまま演奏し続けると簧に水滴が付いて音高が狂い、やがて音そのものが出なくなる。そのため、火鉢やコンロなどで演奏前や間に楽器を暖めることが必要である。
なお、平安時代の「基経」を笙の「楽祖」とする[1]。「基経」とは、『続群書類従』管弦部所蔵の「鳳笙師伝相承」によれば、藤原基経のことで、その後楽人である豊原家に継承されるが豊原時延・時光父子が源頼義及び息子の源義家・義光に伝授され、後に義光が時光の嫡男である時元に返り伝授されたことが記されている。それを意識したのか、足利尊氏も若い頃から笙を習得し、観応の擾乱後に尊氏に擁立された後光厳天皇も尊氏に倣って尊氏の師である豊原龍秋から笙を取得し、その後歴代天皇の間でも笙を演奏するようになった[2]。
現代では雅楽だけでなく、クラシック音楽の作曲家によって管弦楽や室内楽のなかで、あるいは声楽の伴奏楽器として活用されることもある。
笙より1オクターブ低い音域が鳴る竽(う)という楽器もある。これは雅楽の伝統では一度断絶したものの、正倉院の宝物等を参考に、戦後になって復元された楽器の一つである。現代において蘇演(復曲)された作品や、新作の現代雅楽、例えば黛敏郎の「昭和天平楽」などで用いられている。
中国には北京語でション(shēng)、広東語でサンという、同じ「笙」の字を書く楽器がある。これは日本の笙より大型で、音域は日本の笙の倍以上あり、素早い動きにも対応している。もともと奈良時代に日本に伝わった時点では、日本の笙もパイプのような吹き口が付属していたが、現在ではそれをはずし、直接胴に口をあてて演奏する形に変わっている。
笙は八音では「匏」に属する。
ラオス、タイ王国北東部では笙と同じ原理のケーンという楽器があり、一説では、これが中国の笙の原型であると言われる。
竹の順番
音程は竹の長さとは無関係で、吹き口から向かって右側から時計回りに、以下の通りとなる。竹の長さの順位と押さえる指も併せて示す。
名称 | 千 | 十 | 下 | 乙 | 工 | 美 | 一 | 八 | 也 | 言 | 七 | 行 | 上 | 凢 | 乞 | 毛 | 比 |
読み | せん | じゅう | げ | おつ | く | び | いち | はち | や | ごん | しち | ぎょう | じょう | ぼう | こつ | もう | ひ |
近似音 | F#6 | G5 | F#5 | E5 | C#5 | G#5 | B4 | E6 | (G6/A#5) | C#6 | B5 | A5 | D6 | D5 | A4 | (D#5/F5) | C6 |
十二律 | 下無 | 双調 | 下無 | 平調 | 上無 | 鳧鐘 | 盤渉 | 平調 | (双調/鸞鏡) | 上無 | 盤渉 | 黄鐘 | 壱越 | 壱越 | 黄鐘 | (断金/勝絶) | 神仙 |
竹の長さの順位 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 2 | 3 | 4 |
押さえる指 | R1 | R1 | R2 | R2 | R1 | L1 | L1 | L1 | (L1) | L1 | L2 | L3 | L4 | L4 | L4 | (L4/R4) | R2 |
- 竹の長さの順位は、1(最長)・2・3・4・5(最短)と長い順に数字で示している。正倉院の笙には、比も短くして千・也・言と同じ長さにしたものもある。
- 押さえる指は、L(左手)・R(右手)、1(親指)・2(人差し指)・3(中指)・4(薬指)で示している。右手人差し指は千・比の竹の間の隙間に入れ、下・乙は内側から押さえ、比は指の裏で押さえる。
- 也・毛は、正倉院の笙(奈良時代の笙)では簧(した)が付けられていたが、現行の笙では通常簧が付けられておらず無音であり、外観を整えるために竹が残されている。この也・毛から「野暮」という言葉が発生したという説もある。伝来当初は也はG6、毛はD#5であったが、現代音楽等では也をA#5、毛をF5として簧を付けた特別仕様の笙が使われることもある。
合竹
伝統曲で使われる笙の和音を合竹といい、全部で11種類ある。
合竹名 | 構成音 |
---|---|
乞 | 乞(A4)、乙(E5)、行(A5)、七(B5)、八(E6)、千(F#6) |
一 | 一(B4)、凢(D5)、乙(E5)、行(A5)、七(B5)、千(F#6) |
工 | 工(C#5)、凢(D5)、乙(E5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5) |
凢 | 凢(D5)、乙(E5)、行(A5)、七(B5)、八(E6)、千(F#6) |
乙 | 乙(E5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、八(E6)、千(F#6) |
下 | 下(F#5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、千(F#6) |
十 | 下(F#5)、十(G5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、八(E6) |
十(双調) | 十(G5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、八(E6) |
美 | 美(G#5)、行(A5)、七(B5)、比(C6)、上(D6)、千(F#6) |
行 | 行(A5)、七(B5)、上(D6)、八(E6)、千(F#6) |
比 | 行(A5)、七(B5)、比(C6)、上(D6)、八(E6)、千(F#6) |
「十(双調)」は双調の曲のみに用いられる。「十(双調)」と「行」は5音で構成され、他は6音で構成されている。「十」と「比」を除き、構成音のうち最も低い音の管名が合竹名となっている。行と七の音は全ての合竹で用いられ、逆に言(C#6)の音はどの合竹にも入っていない。
現行の雅楽の演奏では、合竹を変える際には全部の指を一度に移し替えるのではなく「手移り」と呼ばれる一定の順序に従って行われる。
著名な笙奏者
- 林哲至(外部リンク)
- 真鍋尚之
- 宮田まゆみ
笙製作者
- 鈴木治夫 - 東京で唯一の笙職人[3][4]
脚注
^ 『神社有職故実』100頁昭和26年(1951年)7月15日神社本庁発行
^ 豊永聡美「後光厳天皇と音楽」(初出:『日本歴史』567号(1998年)/所収:豊永『中世の天皇と音楽』(吉川弘文館、2006年) ISBN 4-642-02860-9 P130-151)
^ ぶらり途中下車NTV, 2008年8月9日
^ 第63回 笙職人 鈴木工房 鈴木治夫フロンティアーズ、2010.0904
関連項目
- 簫
外部リンク
- 笙のページ
- 至淵境 笙について
- 雅楽・笙奏者 真鍋尚之のページ
第114回 多摩探検隊「笙職人~3000年の音色をつなぐ~ 」 中央大学FLPジャーナリズムプログラム・松野良一ゼミ