過越




過越(すぎこし、ヘブライ語: פָּסַח‎、英語: Passover)またはペサハ (pesach) とは、ユダヤ教の宗教的記念日。家族が食卓につき、マッツァー等の儀式的なメニューの食事をとって祝う。期間はユダヤ暦ニサン月(政治暦7月、宗教暦正月)15日から一週間である。ユダヤ暦は太陰太陽暦であり、初日のニサン月15日はグレゴリオ暦3月末から4月頃の満月の日となる。





































ペサハ
教派

ユダヤ教
呼び方

ヘブライ語: פֶּסַח
イディッシュ語: פֶּסַח
和訳
過越
開始

ユダヤ暦:ニサンの14日
終了

ユダヤ暦:ニサンの21日/22日
由来

十の災いの後、奴隷から解放されてヘブライ人がエジプトから脱出したことを祝う。

しるし
2つ(イスラエルでは1つ)の祝いの食事「セーデル」、ハッガーダーの詠唱、マッツァーを食す、4杯のぶどう酒を飲む、エリヤの杯を満たす。
関係する祭り

シャブオット(七週の祭り、ペンテコステ)…過越祭の第2日から49日後に祝われる。



目次






  • 1 起源


  • 2 聖書における過越の準備


  • 3 聖書における除酵祭の規定


  • 4 現代の過越祭(ペサハ)


  • 5 食事


  • 6 語源と、各国語での名称


  • 7 西暦での対応表


  • 8 キリスト教における預言的解釈


  • 9 脚注


  • 10 参考文献


  • 11 関連項目


  • 12 外部リンク





起源


聖書の出エジプト記 12章に記述されている、古代エジプトでアビブ(ニサン)の月に起こったとされる出来事に起源を持つ。エジプトの地で奴隷になっていたイスラエルの民が、モーゼの先導でパレスチナの地に脱出した故事を記念する。ユダヤ人にとって、秋の仮庵の祭 (Sukkoth) などと並ぶ重要な祭日。


イスラエル人は、エジプトに避難したヨセフの時代以降の長い期間の間に、奴隷として虐げられるようになっていた。神は、当時80歳になっていたモーセを民の指導者に任命して約束の地へと向かわせようとするが、ファラオがこれを妨害しようとする。そこで神は、エジプトに対して十の災いを臨ませる。その十番目の災いは、人間から家畜に至るまで、エジプトの「すべての初子を撃つ」というものであった。神は、戸口に印のない家にその災いを臨ませることをモーセに伝える。つまり、この名称は、戸口に印のあった家にはその災厄が臨まなかった(過ぎ越された)ことに由来する。


この祭事は、元は遊牧民において冬の宿営地から夏の宿営地へと移動する際に行われていた厄除けのための祭事が起源であり過越とは関係のない祭であったが、下記ような出エジプトにおける過越の伝承と結び付けられてユダヤ教の祭となったと考えられている。種入れぬパンの祭(除酵祭)もまた、起源は過越とは関係のないイスラエル人がカナンに定住するようになった時代の農業祭であったが、過越祭と除酵祭がともに種入れぬパンを食べる習慣を持ち、また祭の時期も近かったため、二つの異なる祭が併合されて一つの祭となったと考えられている[1]



聖書における過越の準備


現在では行われないものと受け継がれているものがある[2]



アビブ(ニサン)10日

傷のない雄の子羊、または山羊を選び分ける(出エジプト記12章5節)。

アビブ(ニサン)14日

その羊(または山羊)を屠殺し、その血を家の2本の戸柱と戸口の上部に掛ける(出エジプト記12章6-7節)。

アビブ(ニサン)15日(日没で日付が変わる)

夜にその肉を焼き、酵母の入っていないパン(マッツァー)と苦菜(マーロール)を添えて食べる。生のまま、または煮て食べることは禁止されている(出エジプト記12章8-9節)。

現在もユダヤ教はもちろん、キリスト教の聖餐式でも酵母(パン種)の入っていないパンを食べる習慣が受け継がれている。ただし、正教会を始めとする東方教会では酵母入りの発酵パンを聖体礼儀で用いる。(最後の晩餐参照)

残った肉は火で焼き尽くす必要がある。朝まで残しておいてはいけない(出エジプト記12章10節)。



聖書における除酵祭の規定



  • 神への祭りとして代々祝わなければならない(12章14節)。

  • 14日の夕方から21日の夕方までの七日間は酵母入りのパンを食べてはならない(15, 18節)。

  • 1日目と7日目の聖会の日には仕事をしてはいけない(16節)[2]



現代の過越祭(ペサハ)




15世紀




現代のセデル。ハガダー、キッパー、コーシェル・ワイン、セデル・プレートと料理、布巾、マッツァー



Pessach Pesach Pascha Judentum Ungesaeuert Seder datafox.jpg


聖書の命令に従って、ユダヤ教では今日でも過越祭除酵祭)を守り行っている。このユダヤ暦のニサン15日から始まる一週間はペサハと呼ばれるユダヤ教の三大祭りのひとつであり、ほとんどのユダヤ教徒がこれを祝う。




期間中は「ハガダー」という「出エジプト」にまつわる書物を読む習わしがある。この祭のあいだ、男子の多くは敬虔の証として「キッパー」という縁なしの帽子をかぶる。





食事




キッパーを売る店(2004年6月、エルサレムにて)


ユダヤ人がモーゼに率いられてエジプトを脱出した時の状況を伝える「出エジプト記」は、エジプト王の追跡を受けたユダヤ人集団はパンに酵母を混ぜて膨らむのを待つだけの時間の余裕がなく、酵母を入れないパンをそのまま食べたと記録する。3月末から4月はじめの1週間、ユダヤの人びとは、エジプトを脱出した時の記憶を忘れないよう、酵母でふくらませたパンを食べない。


過ぎ越祭の日の夕食には、以下のものが提供される。



  • 種入れぬパン(マッツア)エクソダスを記憶する。

  • 焼いた羊肉。犠牲の羊を象徴する。


  • 茹で卵。神殿崩壊の嘆きを表す。

  • 春の季節を象徴する緑の野菜。

  • 苦菜。エジプトで奴隷の境遇に落ちたユダヤ人が流した涙を表す。


  • ハローセト(果汁の練り物)。奴隷となったユダヤ人が、エジプト王のために作った煉瓦を表す。


過越祭の食卓で主催者の捧げる祈祷には「今年は異郷の地にあっても、来年こそはエルサレムで!」の文言が含まれる。ディアスポラで全世界に離散したユダヤ人は、数千年にわたって「来年こそはエルサレムで」の文言を毎年唱え続け、シオニズム運動の根拠となった。



語源と、各国語での名称























































ヘブライ語 פָּסַח
ラテン語 Pascha
イタリア語 Pesach/Pesah/Pasqua ebraica
フランス語 Pessa'h/Pâque
スペイン語 Pascua
ドイツ語 Pessach
オランダ語 Pesach
英語 Passover
スウェーデン語 Pesach
ハンガリー語 Pészah (húsvét)
ポーランド語 Pascha
ロシア語 пасха (paskha)
エスペラント語 Pesaĥo


西暦での対応表





















































































































































































































































































































































































































































ユダヤ暦
グレゴリオ暦
ニサン14日の

日没後開始


ニサン15日

過越祭[3][4]


ニサン21日の

日没前終了


5730

1970年

4月20日

4月21日

4月27日
5731

1971年

4月9日

4月10日

4月16日
5732

1972年

3月29日

3月30日

4月5日
5733

1973年

4月16日

4月17日

4月23日
5734

1974年

4月6日

4月7日

4月13日
5735

1975年

3月26日

3月27日

4月2日
5736

1976年

4月14日

4月15日

4月21日
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1977年

4月2日

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4月21日

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1979年

4月11日

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3月31日

4月1日

4月7日
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4月25日
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4月10日

4月11日

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2029年

3月30日

3月31日

4月6日
5790

2030年

4月17日

4月18日

4月24日


キリスト教における預言的解釈


洗礼者ヨハネは民衆に対し、イエス・キリストのことを「世の罪を取り除く神の小羊」であると紹介した。これは「苦難の僕」(イザヤ書 52:13-53:12)のことであると解されている。そして、イエスが処刑されたのはニサン14日(過越の準備の日)であり、犠牲の羊はイエス・キリストであったとも説明されている(コリントの信徒への手紙1 5:7)。



脚注




  1. ^ 関根 (1969)、141頁。

  2. ^ ab[1]


  3. ^ http://www.oikoumene.org/en/resources/documents/commissions/faith-and-order/i-unity-the-church-and-its-mission/towards-a-common-date-for-easter/index#table


  4. ^ https://chrome.google.com/webstore/detail/hebrew-date-converter/mapiljckeeknejjkaeanaljeahfjckod



参考文献



  • 石川耕一郎著 『過越祭のハガダー』 山本書店 1988年(昭和63年)、ISBN 4-8414-0198-9

  • 関根正雄 『出エジプト記』 岩波書店、1969年。ISBN 4-00-338012-6。

  • 『ハガダー 過越し祭の式次第』 ミルトス 2003年(平成15年)、ISBN 4-89586-147-3


  • 米谷ふみ子著 『過越しの祭』 岩波書店〈岩波現代文庫〉2002年(平成14年)、ISBN 4-00-602055-4



関連項目



  • マッツァー

  • ファルフェル

  • ハド・ガドヤ


  • ペイサホフカ (пейсаховка) とはイディッシュとロシア語の混成語で、ロシア・東欧のユダヤ教徒が祭りで飲む強いウォッカのことである。


キリスト教:


  • Quartodecimanism

  • アニケトゥス


  • 復活祭(イースター)

  • メシアニック・ジュダイズム



外部リンク



  • 「過越の祭り」式次第

  • Passover History and Meaning of Freedom in Faith - Jewish Passover Holidays, Story, Recipes, Seder, Meal, Supper, Feasts, Foods, Songs, Humor, Paintings, Art


  • [2](1779年ネッケルスハイム)


  • 口語訳旧約聖書(日本聖書協会翻訳、1955年)- ウィキソース








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